結論から言えば、剣道で鍛えた体型に既製スーツを合わせるのは難しく、剣道体型のスーツはオーダーで作るのが最短かつ確実な解決策です。竹刀を振り込む動作で前腕と広背筋が発達し、構えと踏み込みによって体の左右差も生まれます。既製スーツはこのいずれも想定していないため、肩幅で選べば胴が余り、胴で選べば腕が上がらないという板挟みになります。
この記事では、愛知県稲沢市のオーダースーツ専門店として剣道経験者の採寸を担当してきた実感をもとに、剣道体型のスーツで押さえるべき採寸ポイントと仕様の選び方を、上半身・腕・左右差・下半身の順に解説します。
剣道体型のスーツが既製品で合わない3つの理由
剣道体型のスーツが合いにくい理由は、大きく3つに整理できます。
1つ目は背中の広がりです。素振りと打突の反復で広背筋と僧帽筋が発達し、肩甲骨まわりの厚みが増します。既製スーツの背中はほぼ平面に近い形で設計されているため、背中が張るとその力がジャケット全体を後ろへ引っ張り、襟が首から浮いたり、脇の下に斜めのシワが集中したりします。試着室で「なんとなく落ち着かない」と感じる原因の多くはここにあります。
2つ目は前腕と手首の太さです。剣道は握りを効かせ続ける競技のため、前腕の屈筋群が特徴的に発達します。上腕はさほど太くないのに前腕だけがしっかりしている、という方が多く、既製スーツの袖は肘から袖口へ向かって細くなる設計なので、袖口の手前だけがきつくなります。腕を下ろすと突っ張り、袖を通すときに引っかかる、という違和感につながります。
3つ目は左右差です。右手前・右足前の構えを長年続けると、右肩がわずかに前へ出て下がり、左右で肩の高さと腕の実測長が変わります。剣道経験者の採寸では、左右の袖丈が1cm前後違うケースが決して珍しくありません。既製スーツは左右対称に作られているため、片側だけ袖が長く見える、片側だけ襟が浮くといった現象が起きます。
剣道体型のスーツで最初に確認すべきは「肩と背中」
剣道体型のスーツを作るとき、当店が最初に確認するのは肩線の位置と背幅のゆとりです。ここを外すと、あとからどれだけ他の部分を詰めても収まりません。
具体的には、肩の傾斜(いかり肩か、なで肩か)と、背中を丸めたときに肩甲骨がどこまで動くかを見ます。剣道経験者は、僧帽筋の発達で一見いかり肩に見えても、実際には肩先が前へ入っている「前肩」であることが多く、肩パッドを厚くすると余計に窮屈になります。この場合は肩パッドを薄くして肩の自然な傾斜に沿わせ、そのぶん背幅と袖付けの角度でゆとりを確保するほうが、動きやすく見た目も整います。
背中が張ってジャケットが持ち上がる感覚が強い方は、背中が張ってジャケットが浮く方向けの解説記事もあわせて確認すると、原因の切り分けがしやすくなります。
太い前腕に合わせる袖の設計とシャツの考え方
前腕が太い方の袖は、単純に袖幅を太くすれば解決するわけではありません。二の腕の位置で太くすると袖全体が寸胴に見え、せっかくの体型が野暮ったく映ります。
当店では、肘上・肘下・袖口の3か所を分けて調整し、肘から下だけを段階的に広げる方法を取ります。袖口の実寸は手のひらが通る最小値ではなく、時計を着けた状態で指1本が入る程度を目安にします。剣道経験者は手首も太いことが多く、既製品の袖口では時計が完全に隠れてしまい、腕を曲げるたびに生地が引っ張られます。
シャツも同様で、首まわりと袖まわりを既製サイズで合わせようとすると胴回りが極端に余ります。首が太いことに起因する不具合については首が太い方のスーツ・シャツ選びの記事で詳しく触れています。
剣道特有の「左右差」をオーダーでどう吸収するか
左右差は、剣道体型のスーツで最も差が出るポイントです。既製スーツでは絶対に解決できず、オーダーでしか対応できない領域だからです。
採寸では、左右の肩の高さ、左右の袖丈、そして背中の中心線が真っ直ぐ落ちているかを個別に測ります。差が5mm程度であれば袖丈のみを左右で変えれば十分ですが、1cmを超える場合は肩パッドの厚みを左右で変えるか、袖付けの位置そのものを左右で変える判断をします。ここは数字だけでは決められないため、鏡の前で実際に構えに近い姿勢を取っていただき、どちらの見え方を優先するかを一緒に決めています。
なお、左右差そのものの考え方は体に左右差がある方のスーツ記事でも整理しています。剣道に限らず、片側を使う競技経験者に共通する話です。
剣道で鍛えた体に合う一着を、実際に測って確かめてみませんか。袖の突っ張りや左右差は、その場で体を動かしていただければ数分で原因がわかります。無料相談・ご予約はこちらからどうぞ。
踏み込みで発達した太ももとふくらはぎのパンツ設計
剣道は右足の踏み込みと左足の引きつけを繰り返すため、太もも前面とふくらはぎが発達します。上半身に比べて意識されにくい部分ですが、パンツが合わないと座ったときの窮屈さが最も気になります。
ポイントはわたり幅(太もも周り)を確保したうえで、膝下を細く落とすことです。わたりに合わせてウエストを選ぶと胴回りがぶかぶかになるため、ウエストとわたりを独立して設定できるオーダーの利点がそのまま効きます。ふくらはぎが太い方は、裾幅を狭くしすぎると裾が持ち上がって靴下が見えるため、裾幅は最低でも18cm前後を確保するようにしています。
また、稽古を続けている方は太ももの太さが年単位で変動します。将来の増減を見越して、パンツの内側に縫い代を多めに残しておくと、あとから1〜2cmの調整が可能になります。
剣道体型のスーツに向く生地と仕様
生地は、ストレッチ性のあるウール混を第一候補にしています。背中と腕が大きく動く体型では、縦横どちらにも伸びる2WAYストレッチのほうが、着ていて疲れません。目付は240〜280g程度の中肉が扱いやすく、薄すぎると筋肉のラインを拾い、厚すぎると肩まわりがもたつきます。
仕様面では、背抜きではなく総裏または半裏にして生地の伸び戻りを助けること、ベントはサイドベンツにして座ったときと歩いたときの開きを逃がすことをおすすめしています。色柄は、体の厚みを強調しないよう、光沢の少ないネイビーやチャコールの無地・シャドーストライプが無難です。
当店のフルオーダースーツは¥59,800(税込)からご用意しています。
よくある質問
Q. 現役を引退して体型が変わりそうですが、今作っても大丈夫ですか。
体型が変わる見込みがある場合は、縫い代を多めに残す仕様でお作りするのが現実的です。ウエストで2〜3cm、わたりで1〜2cm程度の調整余地を残しておけば、数年後も同じ一着を着続けられます。採寸時にその旨をお伝えください。
Q. 剣道の指導者として道場や式典に出る用途でも作れますか。
もちろん可能です。式典や審査会で人前に立つ機会が多い方は、動きやすさよりも立ち姿の端正さを優先し、肩線をやや直線的に取る設計をおすすめすることがあります。用途を具体的にお聞かせいただければ、仕様を調整します。
Q. 左右差があると仕上がりが不自然になりませんか。
逆です。左右差を無視して左右対称に作るほうが、片側だけシワが寄って不自然に見えます。左右を分けて設計したスーツは、着たときに初めて左右対称に「見える」ようになります。仕上がりの見え方が気になる場合は、仮縫いを挟んで途中確認する方法もあります。
