空手やテコンドーで体を作ってきた人にとって、空手体型のスーツは既製品ではなくオーダーが結論です。理由は単純で、この体型に必要な「背中の可動域」と「太ももの余裕」が、既製品のサイズ表にそもそも項目として存在しないからです。肩幅に合わせればウエストがだぶつき、ウエストに合わせれば腕が前に出ない。この二択から抜け出すには、部位ごとに寸法を決めるしかありません。
愛知県稲沢市の当店には、道場に通い続けている方、現役を退いて指導者になった方が来店されます。採寸すると、競技歴の長い方ほど共通した数値の癖が出ます。ここでは空手・テコンドー体型のスーツで押さえるべき6つの採寸ポイントを、実際に測りながら見ている観点とあわせて解説します。
空手体型のスーツが既製品で合わない3つの理由
ひとつ目は背中の広さです。突きと引き手を繰り返す競技は広背筋と僧帽筋が同時に発達します。既製品は背幅を胸囲から機械的に割り出すため、背中だけが極端に足りません。着るとジャケットの後ろ襟が浮き、腕を前に出した瞬間に肩線が引きつります。
ふたつ目はドロップ差です。ドロップとは胸囲とウエストの差のことで、既製品の標準は12cm前後。ところが体幹を絞り込んでいる競技者は16〜20cmに達することが珍しくありません。胸に合わせて選ぶと、ウエストが握りこぶしひとつ分余ります。
三つ目は脚の張りです。蹴り技は大腿四頭筋とハムストリングス、そしてふくらはぎを同時に太くします。ウエストで選んだスラックスは、太ももで止まるか、履けても座った瞬間に生地が悲鳴を上げます。
採寸1:肩と背幅は「腕を前に出した姿勢」で決める
直立で測った背幅だけを信じると、必ず窮屈になります。当店では腕を体の前でクロスさせた姿勢と、正面で手を組んだ姿勢の両方で背中を測り、直立時との差を確認します。競技歴の長い方はこの差が大きく、その分をジャケットの背中側にゆとりとして配分します。
もうひとつ見るのが肩の傾斜と厚みです。三角筋が張っている人に既製品の標準的な肩パッドを入れると、肩先が二段になって不自然に膨らみます。肩パッドを薄くし、代わりに肩先のカーブを体に合わせて描くほうが、結果として肩幅は広く見えて上半身は締まって見えます。背中の張りでジャケットが上がってしまう症状については背中が張ってジャケットが浮く人のスーツの直し方で詳しく解説しています。
採寸2:首まわりは道着の襟が教えてくれる
組手で相手の襟を掴む競技、受けの動作を繰り返す競技は、僧帽筋が首の根元から盛り上がります。この状態でシャツの首まわりを既製品の標準(胸囲から換算した値)で作ると、ボタンを留めた瞬間に呼吸が浅くなります。
採寸のコツは、顎を軽く引いた姿勢で測ることです。真っすぐ前を見た姿勢で測ると、実際にネクタイを締める姿勢より細く出ます。さらに首が太い方はシャツの襟型そのものを見直す価値があります。首が太い人の襟選びは首が太い人のスーツとシャツの選び方にまとめました。
採寸3:ドロップ差を「絞る」のではなく「つなぐ」
ドロップ差が大きい体型で失敗しがちなのが、ウエストを絞りすぎることです。数値だけ合わせると、胸から腰にかけて生地が急な斜めの線を描き、横から見たときに不自然な三角形になります。
当店で優先しているのは、胸の下からウエストにかけての曲線の滑らかさです。絞る位置をやや高めに置き、絞る量を数ミリ単位で分散させると、同じ寸法でも締まって見え、なおかつ座ったときに前ボタンが引っ張られません。ドロップ差の考え方そのものはスーツのドロップとは?胸囲とウエストの差で選ぶサイズの正解もあわせてご覧ください。
自分のドロップ差が何cmか分からない、という段階で構いません。実際に測ってみると「思ったより特殊な体型だった」と気づく方がほとんどです。採寸だけのご相談も歓迎しています。
採寸4:太ももとふくらはぎはワタリ幅と裾幅の両方を見る
スラックスで見るべき数値は、ウエストでもヒップでもなくワタリ幅(股下すぐの太もも部分の幅)です。蹴り技系の競技者はここが既製品の同ウエストサイズより数cm大きくなります。
見落とされやすいのが裾幅です。ワタリだけ広げると、太ももからふくらはぎにかけて生地が余り、いわゆる「乗馬ズボン」の形になります。ふくらはぎが太い方は裾幅も連動して広げ、シルエット全体を筒に近づけるほうが自然に収まります。左右の脚で太さが違う方も少なくないので、必ず両脚を測ります。
採寸5:袖と裄丈は前腕の太さで決まる
巻藁突きやミット打ちを続けている方は、前腕が想像以上に太くなります。袖幅を標準で作ると、腕を曲げたときに肘の内側で生地が詰まり、シャツの袖口が上がってきます。
袖丈は「手首の骨が隠れる長さ」が基本ですが、前腕が太い方はジャケットの袖口をわずかに広げないと、シャツの袖が中で押し出されてしまいます。ジャケットの袖からシャツを1〜1.5cm覗かせたいなら、袖幅とセットで設計する必要があります。
採寸6:生地は「ストレッチ率」より「戻り」で選ぶ
動きやすさを求めてストレッチ素材を選ぶ方は多いのですが、重要なのは伸びる量よりも伸びた生地が元に戻る力です。戻りが弱い生地は、膝や肘が数か月で袋状に出てしまいます。
ウール本来の弾力に頼った高密度の生地か、ポリウレタンを少量だけ混ぜた生地か。どちらが向くかは着用頻度で変わります。週に4日以上着るなら回復力を重視した生地、式典や来賓対応など着用回数が限られるなら風合い優先で構いません。ストレッチ素材の考え方は動きやすいストレッチスーツとは?疲れない一着をオーダーで作るで掘り下げています。
よくある質問
Q. 現役で体重が増減します。今作っても大丈夫でしょうか。
体重が動く前提で仕立てることは可能です。スラックスのウエストにアジャスターを入れる、ジャケットの脇の縫い代を通常より多く残しておく、といった設計をあらかじめ組み込みます。増減の幅がどのくらいか、どの部位から変わるかを採寸時に教えていただければ、そこを重点的に余らせます。
Q. 道着で慣れているので、スーツもゆったりが好みです。大きめに作れますか。
作れますが、単純に大きくするとだらしなく見えます。おすすめは、胸と背中の可動域はしっかり確保しつつ、ウエストと裾幅は体に沿わせる方法です。動きの自由度は保ったまま、見た目は締まります。実際に袖を通して調整できるのがオーダーの利点です。
Q. 引退して体型が変わってきました。作り直すタイミングは。
胸囲かウエストが3cm以上動いたときが目安です。それ以下ならサイズ直しで対応できることが多く、3cmを超えると縫い代が足りずに直しの限界が来ます。ジャケットの前ボタンを留めたときにシワがX字に出始めたら、一度見せていただくのが確実です。
