パーソナルトレーナーのスーツ選びで最優先すべきは、見た目の格好良さよりも「腕が上がるか」「しゃがめるか」という可動域です。トレーナーは座って話すだけの職業ではありません。セミナーで身振りを使い、名刺代わりの写真で立ち姿を見られ、商談の場でその場でフォームを示すこともあります。既製品を体格に合わせてワンサイズ上げる選び方をすると、動けないうえに太って見えるという最も避けたい組み合わせになります。
この記事では、愛知県稲沢市のオーダースーツ専門店として日々トレーナーや競技者の採寸をしている立場から、パーソナルトレーナーが一着目に選ぶべきスーツの条件を、体型・生地・シーン別に整理します。読み終えたときに「自分の体格で何を優先して、何を捨てるべきか」が判断できる状態を目指します。
パーソナルトレーナーのスーツが「借り物っぽく」見える3つの理由
トレーナーの方が既製スーツを着ると、サイズは合っているはずなのに、どこか着られている印象になることがあります。原因はほぼ次の3つに集約されます。
- 胸囲に合わせるとウエストが余る。既製スーツは胸囲とウエストの差(ドロップ寸)が6〜7cm前後を前提に作られています。トレーニングを継続している方はこの差が12cm以上になることも珍しくなく、胸に合わせた瞬間に胴回りが箱のようになります。結果として、実際は絞れている身体が寸胴に見えてしまいます。
- 肩と背中が張って襟が浮く。三角筋と僧帽筋が発達していると、肩線が押し上げられて後ろ襟が首から離れます。ジャケットの背中側に横方向のシワが走るのもこのためです。これは「大きいサイズを買う」では解決せず、後ろ身頃の設計を変えるしかありません。
- 袖と太ももだけが極端に窮屈。上腕とワタリ(太もも周り)は個人差が最も大きい部位です。全体が合っていても、この2箇所だけが張るとシルエット全体が破綻して見えます。
いずれも「体格が良いこと」が原因ではなく、平均体型を前提にした型紙と噛み合っていないだけです。アスリート体型の方に必要なスーツ設計は一般的なビジネスマンとは別物として考える必要があります。
パーソナルトレーナーのスーツ選びで押さえる7つの条件
優先順位の高い順に並べています。上の3つを満たせば、着心地の不満はほぼ解消します。
- アームホールは高く、小さく。腕周りの穴を大きくすると楽になると思われがちですが、逆です。アームホールが低い(脇下が深い)ジャケットは、腕を上げると身頃ごと持ち上がります。位置を高く、径を必要最小限にすることで、腕だけが独立して動くようになります。
- 肩は薄いパッドかノーパッドに。もともと肩が張っている体格に構築的なパッドを重ねると、いかつさだけが増幅されます。肩の丸みをそのまま活かす仕様のほうが、結果として上品に収まります。
- 背中は「ゆとり」ではなく「形」で逃がす。広背筋の張り出しは、後ろ幅を足すのではなく、背中心の縫い目のカーブと肩甲骨部分の膨らみで吸収します。単に幅を足すと、動かないときにダブついて見えます。
- ウエストはしっかり絞る。胸囲が大きい方ほど、ウエストを絞らないと太って見えます。絞ることで初めて、鍛えた身体の逆三角形が服の上に出ます。
- ストレッチ生地とストレッチ裏地を組み合わせる。表地だけ伸びても、裏地が伸びなければ動きは止まります。可動域を求めるなら裏地までセットで考えてください。
- パンツはヒップとワタリを実寸基準で、裾に向けて細く。脚が太い方が全体を太いパンツで揃えると、下半身が重くなります。必要な場所だけ確保して、膝から下でしっかり絞るのが正解です。
- 手入れが簡単な素材を選ぶ。移動が多く、汗をかきやすい職業です。ウォッシャブル仕様や防シワ性の高い生地を選ぶと、着用頻度が上がります。
シーン別|パーソナルトレーナーがスーツを着る5つの場面
「トレーナーにスーツは必要か」と聞かれることがありますが、独立や法人案件を視野に入れるほど着用機会は増えます。
- セミナー・講演・登壇。身振りが大きくなるため、可動域と背中のシワの出にくさが最重要です。
- 法人営業・健康経営の提案。企業の担当者や産業医と対面する場面では、ジャージやポロシャツでは土俵に上がれません。
- 認定式・資格取得・表彰の場。写真に残るため、肩と襟元の収まりが後々まで効きます。
- 独立開業時の挨拶回りとプロフィール撮影。ここで撮った写真はホームページやSNSで数年使われます。
- 冠婚葬祭。体格が変わりやすい職業だからこそ、礼装は寸法直しの余地を残して仕立てておくと安心です。
体格を活かした一着を検討されているトレーナーの方は、まずは今お持ちのスーツのどこが窮屈かを教えてください。原因の切り分けだけでもお役に立てます。
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店頭で実際に見ているトレーナー体型の採寸ポイント
ここからは、稲沢の店舗で実際にトレーナーや競技者を採寸するときに、私たちが数字以外に確認している点をお伝えします。
まず胸囲は、通常は息を吐いた自然な状態で測ります。ただしトレーナーの方は、人前で話すときに無意識に胸を張り、肩甲骨を寄せる癖があります。採寸台の上での姿勢と、実際に説明しているときの姿勢が別物であることが多いため、可能であれば「いつも指導しているときの立ち方をしてください」とお願いして、その状態での背中の伸び幅を確認します。ここを見落とすと、店頭では完璧でも現場で背中がつっぱる一着になります。
次に上腕と前腕の差です。上腕だけが太いのか、前腕まで太いのかで袖の絞り方が変わります。上腕のみ発達している場合は袖の上半分だけを膨らませ、肘から下は細く仕上げます。ここを一律に太くしてしまうと、袖が筒のようになり途端に野暮ったくなります。
もう一点が左右差です。デモンストレーションや補助を利き手側で繰り返す職業のため、肩の高さや腕の太さに1cm前後の差が出ている方が実際にいます。片方だけ袖が余る、片方だけ襟が浮くという症状はこれが原因です。左右で別々に寸法を取れば解消できます。
最後に、最もよく受ける相談を挙げておきます。「増量期に作ったスーツが減量期に緩くなった」「逆に去年のスーツが今年は入らない」というものです。この職業では体重が動くことが前提なので、私たちはあらかじめウエストと後ろ幅に直しの余地を残す仕立てを提案しています。作る段階でこの相談をいただけるかどうかで、その一着が着られる年数が変わります。
生地と色柄はどう選ぶか|清潔感と信頼感を両立させる
トレーナーという職業は、清潔感がそのまま説得力になります。一着目は次の基準で選ぶと外しません。
- 色は濃紺(ネイビー)の無地から。体格を引き締めて見せ、セミナーでも商談でも使えます。二着目でミディアムグレーを足すと着回しが安定します。
- 柄は控えめに。大きめのチェックやストライプは、面積の広い身体の上ではさらに大きく見えます。柄を入れるならごく細いシャドーストライプ程度に留めてください。
- 光沢は抑える。強い光沢は体積を強調します。目の詰まった落ち着いた表面感のほうが、身体の厚みが上品に見えます。
- ウール混のストレッチ、オールシーズン対応。着用機会が読みにくい職業なので、まずは通年使える中間の重さを選ぶのが合理的です。
色柄の考え方をより詳しく知りたい方は、競技を離れて指導する立場になった方のスーツ選びも併せてご覧ください。装いに求められる役割が近いため、判断基準が重なります。
独立・開業するトレーナーが一着目で失敗しないために
独立のタイミングでスーツを新調する方は多いのですが、開業直後は投資先が多く、予算配分に迷いがちです。結論から言えば、着る回数が読めないうちは高価格帯に一気に振らず、まず体型に合った一着を確実に作ることをおすすめします。生地のグレードを上げるより、寸法が合っていることのほうが見た目への寄与がはるかに大きいからです。
当店ではフルオーダースーツを59,800円(税込)からご用意しています。価格帯ごとに何が変わるのかを整理したオーダースーツの相場と予算の決め方も参考にしていただければ、判断がしやすくなるはずです。
また、納品までには一定の期間が必要です。認定式や登壇の予定が決まっている場合は、逆算して早めにご相談ください。予定日が先に決まっているほど、生地の選択肢も広く取れます。
よくある質問
Q. トレーニングを続けると、作ったスーツはすぐ着られなくなりませんか?
体重が動く前提でお作りすれば、数年単位で着ていただけます。具体的には、ウエストと後ろ中心に直し代を通常より多く残し、増減どちらにも寸法直しで対応できるようにします。体重で3〜4kg程度の変動であれば、ほとんどの場合は直しの範囲内に収まります。
Q. パーソナルトレーナーはスーツとジャケパン、どちらを揃えるべきですか?
法人営業や登壇の予定があるなら、まずスーツを一着揃えるのが確実です。スーツは上下揃いで着ればフォーマル、ジャケットだけ単体で使えば少し崩した装いにもなり、一着で二役をこなせます。ジャケパンを先に揃えると、かしこまった場面で対応できない状況が発生します。
Q. ストレッチ生地は安っぽく見えませんか?
現在のストレッチ素材はウールに伸縮性のある糸を織り込んだものが主流で、見た目や手触りは通常のウール生地とほとんど変わりません。安っぽく見える原因は素材そのものより、光沢が強すぎる仕上げやサイズの不一致にあります。表面感が落ち着いた生地を選べば、可動域と品格は両立できます。
